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あなたの著書を読んできました ~マーケターのための読書充実記 vol.2

どのシナリオになっても打ち手があるか? 今こそマーケターの真価を磨く時期

西井 敏恭 オイシックス・ラ・大地株式会社CMT、GROOVE X株式会社CMO[下]/西口 一希 Strategy Partners 代表取締役、Marketing Force 共同創業者[右上]/MC:古市 優子(Comexposium Japan 株式会社 CEO)[左上]
西井 敏恭 オイシックス・ラ・大地株式会社CMT、GROOVE X株式会社CMO[下]/西口 一希 Strategy Partners 代表取締役、Marketing Force 共同創業者[右上]
MC:古市 優子(Comexposium Japan 株式会社 CEO)[左上]

「あなたの著書を読んできました ~マーケターのための読書充実記」、第2回目は『デジタルマーケティングで売上の壁を超える方法』 の著者の西井敏恭氏、そして『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』の著者である西口一希氏が対談。一人ひとりの顧客を精緻に捉える考え方が共通している二人から、現況の生活者の変化とビジネス上で取るべきプラン、また「読書で終わらせず実践へ」との強いメッセージが語られました。動画のアーカイブ(約30分)もぜひご覧ください。

結論。シナリオを5つほど用意して対処できる準備を

古市:今回は実務家でありながら、幅広い業種のコンサルティングも手掛けているお二人にお話を聞いていきます。まず、このコロナ禍でのお仕事の変化や、生活者のマインドの変化についてうかがえますか?

西口:今、計14社にコンサルティングや顧問としてかかわっていますが、影響のポジ・ネガは半々ですね。リアルビジネスは当然ネガな影響が出ていますが、デジタルビジネスは“巣ごもり”分がそのまま上乗せされ、2倍、3倍になっている事業もあります。
ただ、ここから先どうすべきかが大事です。結論から言うと、今後のシナリオを5つくらい想定し、変化にいつでも対処できる準備をすることが必要だと思っています。
いちばんネガティブなシナリオは、このまま“withコロナ”状態へと突入し、第二波、第三波を経験しながら自粛が2年ほど続いてしまうことです。逆にポジティブなのは、マスク着用と手洗い・うがい、飲食店では席の間を空けるなどは行っても、ほかは平常時の生活で済むこと。もちろん、お年寄りや基礎疾患のある方は気を付けなければいけません。ただ、世界と比べて日本の重症化率や死亡率はやはり低いので、このシナリオになる可能性も高いと思っています。
ビジネス上で最も危険なのは、どちらか一方に振り切って張ってしまい、出遅れることです。このポジ・ネガの間でも分岐ポイントがあるので、何が起きたらどちらに行くかというのを各事業で考えておき、プランA・B・C~と複数ある中から打てる状態にする。状況変化によってはプランの途中変更もあり得るから、それができるフレキシビリティを組織でどう持つか、また資金や戦略の実効性の検証も必要です。大変ですが、力を総動員してこの1~2週間(2020年5月20日時点)で整えておかないといけないと思います。

西井:僕も西口さん同様、さまざまな事業に携わる中で、まず「デジタルは巣ごもり分が上乗せ」という点は実感しています。オイシックス・ラ・大地は、今ものすごく伸びています。それ自体はプラスですが、物流がこれまで通りにいかなくなったりもしているので、顧客満足度の維持に日々取り組んでいるところです。
また興味深いのは、CMOを務めるGROOVE Xで提供しているLOVOT(ラボット)という家庭用ロボットの動向。1体約30万円、追加で月額1-2万円がかかるなどとかなり高額なのに、今ECで売れています。食材のネット注文が増えるのは想定内でしたが、以前は必ず実物を触って購入が当たり前だった高額商品もECで決済されるようになっているのは、消費者行動のひとつの変化だとみています。
一方でネガな話だと、自分の会社であるシンクロでお手伝いしているJリーグをはじめとしたスポーツ関連ビジネスは厳しいですね。Jリーグはこの2-3年、デジタルマーケティングに注力して観客動員数も相当伸びていたのですが、試合自体ができないとなると施策も限られます。僕自身スポーツがすごく好きなので、当事者だけでなくチームを支えるファンも含めて今どうすべきかを模索しています。
西口さんが「組織のクイックさが必要」と指摘されたように、しっかりプランを準備して、フレキシブルに対応できるところは強いと思います。Jリーグも近年、チェアマンの村井満さんがとても積極的に発言していて、今回も新型コロナの影響による開催判断など迅速でした。業界によって対応は大きく異なると思いますが、やはり動ける会社・組織が強いという印象があります。

コロナがもたらしたのは「何もなくても5年後に来るはずだった未来」

古市:消費者行動だとネガな面が多いのかと思っていましたが、お二人の所感として、現状を意外とポジティブに捉えられているのが印象的です。

西口:楽観視しているわけではありませんが、30年以上ビジネスをしていると、“終わり”はないなと感じるところもあります。僕は阪神大震災を現地で経験していて、その後もオウム真理教の事件や、東日本大震災と原発の問題、去年は台風で大きな打撃を受けましたよね。もちろん直接被害に遭われた方が大変な思いをされたのは間違いありません。ただ、何度も“世の中終わりだ”という空気になりながらも、全体が一気に傾くことは実はほぼありませんでした。
人間というのは、よく言えばすごくアジリティがあるけど、悪く言うと、元に戻ってしまう。習慣を大きく変えるのは、すごく難しいことです。今回も、多くの面でデジタル化が進むなど一定の変化は起こるのでしょうが、メディアがあまりにも「世の中が変わる」という論調で報じているので、そちらに張って外れたときに大きなリスクを背負うのではと思ってしまいます。
石油危機の際、大手石油会社のロイヤル・ダッチシェルがあらかじめすべてのシナリオを想定した上でそれぞれに合わせたプランを準備していたので、いち早く変化に対応できてメジャーになった……という話があります。ビジネスでも政治でも、起こり得るシナリオに対してどの変数がどうなったらこう動く、と決めておくのと、起こるかもしれないと単に思っているだけでは、行動がまったく違います。ポジな面を強調したいのではなく、ポジになったとしても打ち手を講じておかないと取り残される可能性があるから、あえて話しているところがあります。

西井:外食や旅行業などはかなり厳しいと思いますが、これら一部の業種を除けば、僕はこの“withコロナ”が続くにしても収束するにしても、実は想像できる範囲でしか変わらないだろうと強く思っています。デジタル化が進むにしても、今回のことがなくても5年後くらいには来るべきだった未来が前倒しになったにすぎません。
例えば中国では配送ビジネスが定着し、そこに適応できている外食はもともと伸びていましたが、日本ではUberEatsはまだ浸透していませんでした。それが今この状況で使うようになり、意外に便利だねと今後定着していくことは想像しやすいでしょう。リモート会議もそうですよね、慣れるとラクです。コロナ以前と比べた変化の度合は、今を100とすると、事態が落ち着いたら50くらい落ちるかもしれません。それは大きな変化というよりも、これまでの延長上にあることにすぎないと思います。

西口:そうですね。教科書では3行くらいで簡単に語られていた歴史上の疫病も、その時期に書かれた歴史書を読んだりすると、市井の人々は意外に普通の生活を続けていたりします。それを見ると、今言われている「New Normal」という言葉は、ミスリードを誘発する感じがしていますね。

デジタルと非デジタル、進むマーケットの分断化

西口:日本はデジタル化においては周回遅れだったから、今回のことが多少なりとも進むきっかけにはなったと思います。一方、それこそZoomミーティングなどのオンライン化についていけない層もあぶり出された感がありますよね。僕だけでなく、周囲の方々からも聞くのですが、リモート会議だと途端に経営陣や年配の方々の発言が少なくなる。参加している人とそうでない人が明確になってしまったので、意外に、世代交代につながる流れができたのではと少し思います。

西井:西口さんがスマートニュースに所属されていたとき、よく「東京と地域ではスマホの使い方がまったく違う」と言っていましたよね。それとすごく近いなと感じていて、僕らはZoomやYouTubeのライブ配信を普通に使っていますが、そうではない人たちがはっきりしてきた。僕もこれが、世代交代が進むチャンスになるかもしれないなと思います。

西口:僕の書籍でも、(デジタルに慣れた層と使いこなせない層は別の世界に生きているという)「パラレルワールド」があると書きましたが、単純にメディア習慣だけでも30代と40代とでは大きな溝があります。スマホを使いこなしている年下の世代と、アプリを入れると必ず課金されると思い込むくらいで、電話代わりにしかしていない団塊以上の世代。上の世代の人たちの習慣は、変わらないです。
だからといって「この人たちがダメ」と言いたいわけではありません。日本だけで考えると、実はGDPの結構な部分がいまだこの世代に紐づいています。人は40代以降、年をとるにつれて食べる量も少なくなるし行動しないと思われていますが、実はすごくお金を持っていて、使っている。昭和に成功したブランドや商品は、今も彼らが主要顧客です。
ad:tech tokyoなどに参加する人たちはデジタルに慣れているので、「世の中デジタルだ」と言いがちですが、そう言っている人たちの給料を払っているのはおそらくこの世代の人たちですよ。彼らには、どんなに最新のデジタルテクノロジーを使ってもリーチできない。そうしたマーケティング上の課題があるなと常々思っていたところ、今回の影響でますますデジタル側とそうでない側が乖離してしまいました。
ということは、ほとんどの事業主やブランドマーケターはデジタルユーザーだけを見るのではなく、いまだ2つのマーケットがあることを前提に戦略づくりをしたほうがいい。テレビかデジタルかの議論は本当に意味がなく、“人”からスタートしないといけない。このことが、今回のことでかなり加速したと思います。

顧客と提供価値の組み合わせを再考すると市場が見つかる

古市:“人”をみる、顧客の話になったところで、既存顧客についてうかがいたいと思います。この状況下で新規獲得が難しく、既存顧客のフォローやサポートが重要になると言われていますが、その中で選ばれ続けるブランドになるためには何が必要でしょうか?

西井:僕の本も、まず一人のお客さんをちゃんと見ましょうという、実は西口さんと同じことをテーマにしています。一人のお客さんが初期購買からその後どうなっていくか、そこでフォローやサポートが重要になるのは今に始まった話ではありません。例えば今回のことでオイシックスが伸びていると先ほど話しましたが、リアルのスーパーも外食自粛の影響ですごく伸びています。ただ、その中でもお客さんが集中しているのは、既存顧客の満足度がもともと高い店舗なんですよね。
先日リスティング広告の話をしていて聞いたのは、この時期、商品と価格の比較という検索行動があまりされておらず、ほぼ特定店舗の指名買いなのだそうです。単にCRMで顧客育成していくとか、メールやメッセージツールで誘引するのではなく、そもそも既存顧客が満足し推薦する状態をいかにつくれているかが問われているわけです。それが、新規顧客の増加につながります。だから、単に「今こそあのツールを使って既存顧客のフォローを」みたいに考えてしまうと間違ってしまうかな、と思いますね。

西口:同感です。一人ひとりファネルは違うはずなので、それを踏まえてアプローチしましょう、と西井さんも僕も本で言っているのですが、しっかり実践している企業はあまり多くないんですよね。ロイヤル顧客向けの施策を新規顧客にも当てて伸び悩んだり、逆に刈り取り重視でA/Bテストを重ねて新規は取れるがLTVが上がらなかったり。加えて、そもそも自分たちの顧客にあまり興味がない人もすごく多いと感じます。顧客ではなく、ツールに興味がある。でも、お客さんと話してニーズを探ろうとしていない限り、どんなツールを選んでも絶対にうまくいきません。
実際、CRMやMAツールを使いこなしている方は、仮説設定力がものすごく高い。顧客の話をよく聞いて、本当のニーズを知っている人は正しい仮説をばんばん出せるから、正直どんなツールを使っても大差ありません。辛辣な言い方ですが、ツールの微差に目を向けず、まず顧客を見てほしい。
そのくらい、このコロナ禍の時代においては、顧客の重要性を再認識しています。自分の言葉でいうと、「“誰”に対して“何”を提供するか」という顧客戦略を再考しないといけないと考えています。クライアントに宿泊業があるのですが、今後も三密の回避がベースとなると、残念ながらどうしても今までどおりご愛顧いただくのが難しいお客様の層も出てきてしまいます。それなら、ほかの“誰”に“何”を提供できるのか、組み合わせを見直して、さらに複数のシナリオとプランをまさに今想定しておく必要があります。
今回よかった点があるとすれば、全部ゼロベースで考えないといけなくなったことです。前例にとらわれずこの世界を前提に、持てる資産を棚卸しして、顧客とできることの組み合わせを無限に考える。例えば飲食店なら、今この状況下で年配の方々の外食ニーズがすごく高まっていて、ゆったりとおいしいご飯を食べられるなら倍払ってもいい、夫婦で貸し切ってもいい、というくらいのインサイトが出てきています。すると、そのニーズに対応する業態が出てくるはず。このマーケットに誰が最初に手を付けるかで、飲食の業態も変わってくると思います。

西井:皆さん、つい顧客を塊として見てしまって、一人にフォーカスできなくなってしまうんですよね。僕も、今落ち込んでいると思われている外食業の中でも売上が上がっている企業を知っています。もともと顧客とのつながりがあって、この状況下でちょっと業態が変えたら、以前はロイヤルユーザーではなかった顧客が貸し切りニーズ層として急浮上して超ロイヤルになったり。あるいは宅配だったら店よりゆっくり食べられるから購買金額が増えたりと、新しいロイヤル顧客を発掘している企業が伸びています。コロナ禍で顧客を見直すというのは、本当にそのとおりだと思います、興味深いですね。

本を読んで満足せず、実践を通して力を磨く

古市:では、来る状況に備えてマーケターにメッセージをいただけますか?

西口:シナリオを想定し、自分の業態や担当ブランドの提供価値をどう変えるかを考えていきましょう。手法(How)を変えるのではなく、まずは顧客(Who)と自分の事業でできること(What)の組み合わせを何パターンも考えることが重要だと思います。今、マーケターの仕事の大部分がHowにばかり寄っていますが、それはすごくもったいないし、そのままでは伸びません。マーケターとしていちばん伸びるのは、WhoとWhatの組み合わせを延々と考えられる人です。なので、今はマーケターにとって大きなチャンスだと思います。これまでとは異なる、自社でできることとその先にはどういう顧客があり得るかを思い切り考えていくと、思考の幅がすごく広がると思います。

西井:前半でもお話ししたとおり、一部の業態を除けば、5年先くらいに起きるだろうと想像できたデジタル化が今起きている。多くの人がデジタル化で便利になる、ということをわかった状態なのです。なので、そこへの対応が遅れているなら対応すべきですし、自社と顧客の間にデジタルがどう介在するのか、今改めて考えていく機会だと思っています。会社を変えていくチャンスなので、ぜひ進められるといいですね。
加えて、最後に西口さんが言われていたように、お客さんと話してそこからどういうアウトプットを出すかがマーケターにとっていちばん大事だし、仕事において普遍的な部分だと思います。いい本から知識を得ても、それで満足していたら絶対に売上は上がらないので、この時期をトレーニングのチャンスにできると力がつくと思います。

古市:本日はありがとうございました。

西井 敏恭 オイシックス・ラ・大地株式会社CMT、GROOVE X株式会社CMO[下]/西口 一希 Strategy Partners 代表取締役、Marketing Force 共同創業者[右上]/MC:古市 優子(Comexposium Japan 株式会社 CEO)[左上]

<登壇者>
西井 敏恭
オイシックス・ラ・大地株式会社 CMT
GROOVE X株式会社 CMO

西口 一希
Strategy Partners 代表取締役
Marketing Force 共同創業者

<MC>
古市 優子
コムエクスポジアム・ジャパン株式会社
President and CEO

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